「『それから暫くして彼女は何も言わずに・・・』」










オレの席は窓に一番近くて後ろから2番目。サボりやすいと思うとそれはちょっと違って、あの教卓の場所からは案外後ろの席の方がよく見える。それを知ってか知らずか、席が教卓から離れれば離れるほど不真面目なやつが増えていく。今は現国の時間でコレが終わればたしか昼飯。欠伸を噛み殺して教師が読み上げている文章に目を落とした。





















積み重なった些細な事々





















「じゃ続きはまた次の時間に」

「きりーつ、れい、」










教師と日直の声の後、ガタガタと椅子の引く音が耳障りに響いて逆にそれが一気に開放的な感じをもたせた。昼飯の時は図書室に行ってと一緒に食うのが習慣。なるべく人があまり来ない所を選んでいるから、本来は屋上に行きたい所だけどあそこは意外と人が多いからダメ。ちなみにオレが手ぶらで図書室に行くのはがオレの分の弁当を一緒に持っていてくれるから。










「ユウ!ユウも図書室行くん?」

「・・・お前もか」

「オレはいつも図書室さ」










前方に長い髪を結い上げた男子(制服と身長で判断)を見つけて、もしやと思って声をかければ同じクラスの神田ユウ。幼馴染なのかよくわからないけど多分そんな感じで、いつも大抵不機嫌だけど悪い奴じゃない。それとオレがの事を兄妹とは違う感情で見ているのにも多分つーか絶対気付いてる。けどまあ改まって話す様な内容でも無いし話したことも無いし、何よりコイツもの事は可愛がってくれるからオレとしては結構心強い。それはユウがをオレと同じ目で見ているわけではないのも知ってるからなんだけど。そんなわけで黙って歩くユウの隣をオレも並んで歩いて図書室へ向かった。










「あ、あれ、ユウちゃんと一緒に来たの?」

「途中で会ったんさ。」

「そっか」










図書室の中で既に待っていたは後から入ってきたユウを見るなり嬉しそうな顔をして頷いた。あーちょっとそんなに笑顔安売りしちゃいけんさ。心の中で呟きつつ小さい丸型のテーブルに沿った席に座って弁当を広げると、オレの隣、のの隣、にユウが座った。なんか微妙に妬けるんだけどまあいいか。










「・・・あ」

「どうしたんさー?」

「トマトが」

「・・・あー」

「兄妹揃って変な声出してんなよ」










ユウから聞けば変な声なのかもしれんけどオレの今のは納得した声だ。母さんが作る弁当には容赦なく嫌いなモノも好きなモノもいれられるからは少し気を落としてフォークを握った。そんな様子を見てまた食べてやるか、なんて考えつつユウが眉間に皺をよせてるからはトマトが嫌いなんさ、なんて説明してやったり。










「トマトくらい食え」

「だったらユウちゃんこそ蕎麦以外のもの食べた方が、」

「蕎麦は体に良いから良いんだよ」

「ストップ、のトマトはオレが食ってやるから、な」










そうそうユウに言えた言葉じゃない、ってそんな納得してる場合じゃなくて言い合いを始める前に止めなきゃいけん。止めに入ったオレをユウが見てきたけど怖いのであえて見えていないフリをしての差し出してきたトマトを口にいれた。あ、ちょっ・・・今気付いたけど人前であーんしちゃったさ。










「甘やかしすぎじゃねーか、お前」

「そんなことないさ」










ああ今度はユウの標的がオレに変わった。でもそのおかげかはオレ達に挟まれたまま飯を食いだした。は食うのが遅いから丁度良かったかな、なんて思ってるとが今度はユウに向かってトマトを差し出して驚いた。ってかまだトマトあったんだ。母さんいくついれたんだろう。










「ユウちゃんも食べたいの?」

「ちげーよ」

「・・・。お兄ちゃん」

「はいはい」










ユウがオレにつっかかった理由を勘違いしてるはユウに拒絶されてオレの方を向いてまたトマトを差し出す。つーかあのままもしユウが食べてたらとユウが間接ちゅーしちゃうからユウが拒絶してくれて良かった、とか思いつつまたトマトを口にいれるとユウが軽く舌打ちをした。がトマトを食べない事に対してか、またあーんなんてしちゃった事に対してか、まあ多分前者だと思うけどはそれに怯える様子もなく飯を食い始めてまあいいか、なんて思って片付けた。





















――。





















、今日一緒に帰れる?」

「うん」

「・・・も大変だな、こんな煩わしい奴が兄貴で」

「、そんなこと」

「失礼さー」










食い終わって片付けている最中、そんな会話をした俺達にユウが一言そう言った。どういうつもりか知らんけどお互いに好きなんだから問題無いじゃん、なんて言うわけにもいかず、の首に腕を絡めて抱き寄せて嫉妬してもらっても困るさ、なんて笑って言ったらはそれに照れたらしくてオレの腕から逃れようとした。










「莫迦かお前」

「ひでー」

「ナカヨクすんのも大概にしろよ」

「わかってるさ」










にはさっぱり意味のわからない話の様でポカンとオレの腕におさまったまま図書室から出て行くユウを見ていた。あーやっぱりユウは気付いてんだな、なんて一人で納得しつつを呼ぶとくるりとオレの方を向いて何、と聞いてきた。学校ん中でイチャつくのはできるだけ避けてるつもりなんだけど、ユウの前だからってさっきはちょっと気抜きすぎたかな。そんな事を考えつつも早速にキスするとはまた突然のことに暫くポカンとした後慌てて顔を退いた。










「お兄ちゃん学校じゃしないって」

「今ちょっとどうしてもしたくなったんさ」

「大概にしろって言ったばっかりだろ」

「「えっ」」










顔を赤くするに可愛いーなんて言いながらからかうと、突然扉の音がした後ユウの言葉が聞こえてきて二人して驚いてそっちを見ると間違いなくユウが機嫌の心底悪そうな顔をして立っていた。あれ、もしかして見られたかななんて思って今のユウの台詞を思い出して見られていた事にようやく気付いた。もオレと同じらしく、今更慌てて席を立ち上がると、そのまま逃げるように図書室から出て行った。










「あーあ、行っちゃったさー」

「お前が悪いだろ」

「ユウが覗くから」

「オレは財布忘れたから取りにきたんだよ」

「タイミングが悪いさ」









本当タイミングが悪い。たまたま、本当にいつもは校内でキスは愚か手繋ぎもしないのに、こんな時に限って見られるなんて。暫くが口をきいてくれなさそうでちょっとへこんだ。










「お前らマジで付き合ってんのか」

「大マジですけど」

「・・・。せいぜいバレねーように気をつけるこった」

「ちなみに見られたのは初めてさ」

「・・・。」










呆れたようにどうでもいいと切り捨てて財布を持って出て行くユウの後を追うと、ついてくんなシスコンと罵られた。シスコンでも何でもが可愛すぎて好き過ぎて仕方ないんさーなんて惚気たら多分剣道部の竹刀で打たれそうだから黙ってたけど、まさかこのタイミングでユウに見られるとは思わなかったと一人振り返って、明日から図書室じゃ飯食いづらいから別の場所に行った方がいいかな、なんて考えたりした。







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