手を伸ばすのは簡単なのにそれができない。どうか君も同じ気持ちでいてくれたらと願うだけのオレは、距離を縮めようとする努力をしようとしない。だってもしこれ以上近づいて今よりも距離が出来てしまったらオレはどうしたらいい?


「それでさ、アクマが斜め上から来て気付けなくて、」


「そんでそんな傷ができちゃったんさ?」


「 、そうそう。あの時だけは誰かにコンビ組んで貰わないとダメだなって思った。
 私馬鹿だから直ぐ油断しちゃって、」


額の右上辺りに貼られているガーゼを指で軽く触った後そのまま髪を指に絡めると、目を細めてくすぐったそうに身を捩ってみせた君に名残惜し気にその指を離した。今回はこの傷で済んだけれど次もこの程度で済むなんて確証はない。だから伝えられるなら早急に伝えてしまいたいのに。


「じゃあ次任務行く時はオレと一緒が良いってコムイに言ってみれば良いさ」


「え?一緒に行ってくれるの?」


「おう」


今の、オレは上手く笑えて言えたんかな。多少押付けがましく言ってしまったかもしれない。けれどそれに笑いながらありがとう、そうしてみる、って言った君は可愛くて今すぐにでも抱きしめたいんだけど、やっぱりイキナリはダメかなーなんて考え込んでしまう辺り、もうオレは結構臆病者に成り下がってる。


「じゃ、私そろそろ部屋戻るね」


「ん、おやすみ」


「おやすみラビ」


あーあ、行っちゃうさ。今日も此処で終わりかな、立ち上がりオレに背を向けて扉に向かう君の背中を目に焼き付ける。どうか明日もこんな風に話が出来ます様に。ひきとめたいのにソレすらもできない自分に軽く小さく、溜息を付くと扉を開けた君が振り向いてきょとんとした顔を向けてきた。あ、やべ、今の聞こえた?


「ラビ」


「ん?」


「また明日」


「! ああ、また明日」


また明日、軽く手を振ってとびっきりの笑顔で君が言ったその言葉は今のオレには充分過ぎるほど嬉しい言葉で。また明日も話してくれるんさ?じゃあ何か面白い話でも出来る様に今日は少しストーリーのある本でも読んで寝ようかな。明日が待ち遠しいなんて思うのは何年振りだろう。こういう君に寄せる片想いの感情なら、未だ少しだけ浸ってるのも悪くないかもしれない。




DISTANCE


(Title by Hikaru Utada)










































「ラビ」


「・・・ラビくーん」


反対側に座って寝ているラビを起こすのはかなりの罪悪感だがそろそろ起こさないと降りるべき駅で降りれ無さそうだから仕方が無い。汽車の移動でかなり疲労している事も自分の身に沁みて判っている。ただ頭を窓に寄りかけたまま眠りこけているラビを見るとそれは何処かに吹き飛んでしまうわけで。


「・・・・・ジュニアー」


「いい加減起きないと置いてくよ」


椅子に力なく垂れている手をとって軽く揺すってみても反応が返ってこないところを見ると、かなり爆睡しているらしい。どんどん流れてく外の景色に少し焦りが出てきて、立ち上がって肩に手をかけて揺さぶってみる。


「おーい、お客サーン終点ですよー」


何処かで聞いた台詞を口にしながらカクカクと揺すってみる。こんなにも起きれない子だっただろうかと疑問に感じ始めた頃、ようやくうっすらと瞼を持ち上げたラビに一安心する。


「もう直ぐ降りるよ」


「ん゙ーー」


「わ!?」


自分の席に座ろうと一歩下がった所、腕を引かれて腰に抱きつかれた。慌ててラビの肩に手をかけて離そうとするとラビの口からもうちょい寝かせての言葉が。その気持ちはよーく判るけれど了承することはできなくて、赤い髪の毛に指を埋めて乱暴に撫でながらもう起きないとダメだよと云って聞かせる。


「・・・っちょ、髪が」


「いつまでたっても起きない君が悪いよ」


「あー・・・」


欠伸を噛み殺してズリ落ちたバンダナに手をかけてようやくお目覚めになったらしい。ほっとしたのも束の間、汽車が傾いてバランスを崩した私はラビの隣に危なっかしく座り込んだ。それに驚いたラビも完全に目が覚めたらしく、大丈夫さー?なんて笑いながら言ってくる。なんとかね、と照れ笑いで返すと頭を撫でられた。


「何?」


「お返し」


「あははっ、さっき私もっと強くやったよ」


驚いて聞き返す私に、バンダナで髪を上げきったラビは片方だけの目を細めてそう返した。相変わらずの人懐っこい笑顔につられて私も目を細めるとそのまま髪の毛を梳かれる。神経なんて通っていないはずの髪一本一本が掠めていくラビの指に反応してくすぐったい。


「今度オレが髪の毛結ってやろうか?」


「ええ?どんな風に?」


「んー・・・ポニーテール?」


「ユウになっちゃうよ」


「あ、そういえばそうさね」


ユウはあんな長いの男なのに自分で結ってるんさねー、関心したように呟きながらラビは私の髪の毛を後ろに纏めてみたり二つにわけて纏めてみたり、談笑を交えてそんな事をしている内に下車する駅について、そのころには私の髪は沢山弄ばれたせいか、ひどく温かくなっていた。あと、気持ちの方も。















































例えば外へ出る時は晴天に越したことはないのだけれど、室内にいるとき、その時の私はどちらかといえば今にも泣き出しそうな曇天や湿った空気の匂いや人々が行きかう度に響く跳ね上がっては後を引く水音の方が好きだったりする。


「聞けるかな」


「ん?」


私のベッドを占領して、うつ伏せに肘を突いた状態で読書をしていたラビが私の言葉に反応した。無意識に遊ばせている膝から爪先までのラビの脚を視界に入れて軽く笑みつつ雨が降りそうだよと言い直した。


「まじかぁ」


「今日任務の人は帰ってくるの大変だね」


「・・・そうさね、そう言うにしては楽しそうだけど」


何となく穏やかな気分というか機嫌の良い様の私を見て、ラビも顔を少し綻ばせながら何かイイコトでもあったのか、それともこれからあるのか、と私に聞いてきた。雨が降りそうなのが嬉しいだなんて口にしたら、今しがた自分で言った労いの言葉を意味の無いものにしてしまいそうで、なんとなく笑ってごまかす。


「何がそんなに楽しいんさ?」


まるで雷や停電に怯えつつ少なからずはしゃいでしまう子供の様な気分だ。頭の片隅でそんなことプラス昔の自分が幼かった時の事を思いながらラビにその本面白い?なんて話題を変えてみたりして。


「 、オレには秘密?」


「そんなんじゃないよ」


あからさまに話題を変えた私に首をかしげて聞いてくるラビが可愛くて、私は笑ってそう返した。大した事でもないから言う必要も無いんだけれど展開的に焦らしてる様で何だか少々居た堪れない。本当になんでもないからと言って私からラビに軽くキスをすると、暫く固まった後ラビは、なんでもないことないっしょ、と返した。今のでごまかすつもりだったんだけど失敗したかな。


「何があった、ん・・・、」


ラビの言葉の半ばという事も気にせず再び唇を合わせると、そのまま髪を梳いて耳の後ろ辺りに手をまわされた。暫く唇を合わせたままにしていると窓を叩いては流れていく雨の音が聞こえ、それが強くなっていくのが耳に染み込んで、そのまま眠れてしまえそうな程の安堵感に包まれた。








――・・・








ひとしずく
ヒトシズク






   








 










  













 















   











































なんとなく現代パロ(幼馴染恋人設定)(ラビの部屋にて)


「ん?何これ面白そう」


「う、うわっ今何したさ!?」


貴女がラビの部屋のテレビのビデオデッキから少し出ているビデオのラベルを見て、興味の赴くままそれをビデオデッキの中へ押し込みテレビの電源をつけると、それと同時にラビが貴女に大声でそう言いました。その瞬間。


『んあっ、あっ・・』


「・・・あー」


「こ・・・これって」


「・・・AV、」


「・・・あー・・・あー、ごめん、なさい?」


「え、別にお前が謝ることじゃ、」


艶かしい少々演技くさい女の喘ぎ声とナニをしている男女の映像が。驚いて少し固まる貴女とやっちまったよ的な顔をして貴女の顔色を伺うラビ。少々の会話を交わす間にも喘ぎとベッドのスプリングの軋みがテレビから漏れてきます。


「・・・と、止めていい?」


「・・・どうせだからもう一緒に見ねえ?」


「・・・!? 見るのっ!?」


何となくもう開き直りつつあるラビの顔を見ると笑って返されて、ビデオ停止のボタンを押そうとした貴女は結局その手をとられてしまいます。


「ちょ、ダメですよラビ君」


「何がダメなんさ?」


「! だだだからこーゆービデオ一緒に見るとか」


「今お前明らかに別の事考えたっしょ」


「ないない!」


「だって脚開いてたのに閉じたさ!」


「それはっですねっ」


「まあまあ、とりあえずいーからコッチおいで」


「ええええんりょしますから」


そう言いつつもズルズルとラビの方に引き摺られて、テレビの方を向いて座っているラビの脚の間に、同じようにテレビの方を向かされて座らされる貴女。後ろからはガッチリ抱きしめられて身動きがとれません。


「顔逸らしちゃだーめ」


とりあえず顔だけでもと画面から逸らすと、後ろから伸びてきているラビの手で両耳辺りに手を当てられて強制的にカンショウさせられます。モザイクの意味が殆ど無い映像を映す画面に一気に顔が熱くなる貴女。


「へっへんたいー」


「今頃気付いたさー?」


「そこは否定するところ!」


「むしろ肯定するとこさ。つーかこの女優お前に似てるんさ」


「!?」


「見てみ、ほら」


「やだやだ見ないってば、っう・・・」


言う事を聞かない貴女の耳辺りにふっ、と軽く息を吹きかけて貴女の体が一瞬固まったのを良い事に、また画面から逸れていた顔を戻すラビ。似てると言われても自分の顔なんて把握でききれていない貴女からすれば、ラビの言った言葉の意味を考える方に頭がいってしまったり。


「お前のがもっと可愛いけど」


「何を、・・っ、これいつまで見るの?」


「終わりまで。 見れたら、だけど」


「・・・へ?」




便乗INTERCOURSE










































え、え・・・それ本当ですか?


本当だっつってんさ、アレンて疑り深過ぎ。


だけどまさか、夢とか、無いですか?


しつこい、いい加減認めろよ。夢とかオレどんだけ可哀想な奴なんさ。


だってラビって女癖悪そうだから絶対断られるって、


何その"絶対"って、気にいらねえ。確かに女の子は好きだけどアイツは特別。


・・・ふうん。


・・・お前横取りしようなんて考えんなよ?


え、あ、何でわかったんですか?既に考えてました。・・・特別って、いったい何がどれだけ他の女の子と違うからそう言えるんですか?


・・・は?


浮気しないって自信でもあるんですか?


お、おま・・・アレン、一体オレの何を見てんだよ。


え、何って・・・だから女癖の悪そうで軽い性格っぽいところを


・・・お前とは話しになんないさー


ちょ、逃げる気ですか?!彼女を泣かせたりしたら本気で僕が奪いますからね!(ってゆーか其の前にラビの言ってる事が事実なのか確かめなきゃ)


泣かせてもお前に奪わせるような事はしないさ!聞いて驚けオレが片思いし続けて2年の末に実った恋だ!


にね・・・う・・うっそだー!


嘘じゃねえっつーの!だったら試しにリナリーでもコムイでも聞いてみろ!


聞きますよ、本気で聞いちゃいますからね!


ああ、聞くがいいさ、好きなだけ聞けよ!じゃオレは早速アイツんとこ行くから。


ちょっとラビ!


お前が入り込む隙間なんて1ミクロンも作ってやんないさ。


・・・!




だから年越しの、





















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