「ねえココわかんな・・あ」










いくら参考書に顔を近づけても解けやしない問題に後ろのベッドで横たわり雑誌を読んでいる筈の兄を見返ると、その兄は気持ち良さそうに転寝をしていた。夕方のこの時間はふと眠くなったりするんだよね。特にこういう解けない難しい問題なんかを解こうとしている時なんてまさしく。そう一人で変に納得しつつ兄のその様子を見ているうちに私は自分まで眠気を覚えて握っていたシャーペンを手放した。










「・・・兄ちゃん」










うつ伏せになり顔を横にして寝ている兄の隣に寝転がろうとベッドへ上るとそれは私の体重で軽く軋んだ音を立てた。その音に起きやしないだろうかと意味も無く注意を払ってできるだけそうっと兄の横に体を落とす。間近に寄って、額から目上にかかる柔らかそうな髪とその瞑られた目のラインを見てどうしてこんなに綺麗なのだろうと身内の兄相手なのに溜息が出そうになる。瞼にかかっている前髪を指で梳いて後ろへ流して思わず額に唇を寄せた。無防備に寝ている兄は男でありながらも綺麗で可愛らしい。










「・・ん」










軽く身じろぎをした兄に驚いて触れていた手を一瞬離して、起きていないことが判るとまた暫く茫然と兄の寝顔に魅入った。眠気を誘われてベッドに横になった筈が兄の稀に見せない無防備さに興味と恋慕う気持ちを煽られて、また兄の髪に手を伸ばして指に絡めるようにして触れる。兄妹でありながら恋人だなんて禁断の愛なんて言葉が出てくるから笑ってしまう。血縁同士で生まれた者同士が何で好き合ってはいけないのか甚だ疑問だ。けれどそんな事を公言できる程自身も無くて、そういう深層の考えに反して現実に身を置いている私の肩身はやはりなんとなく狭い。










そういう面倒な事を考えれば考えるほど兄を好く気持ちは膨れ上がって持て余してしまうばかりで今眠り始めたばかりであろう兄を起こしてキスをせがんでしまいそうになる。絶対にこんな事は口から出たりはしないけれど態度にはありありと出てしまう性分らしく、起こさない様にとは思いつつも額と額を合わせてできれば起きて欲しいと思ってしまう。自分ばかり相手が視えていて相手からは自分が視えていないと、変な話片想いをしている様で心苦しい。










「冷た、」

「あっ、ごめっ・・お兄ちゃん寝てたから」

「・・・、何で離れんの」










思わず兄の脚に絡めてしまった私の足先は末端冷え性のせいか冷えていたらしく、寝始めて熱を持っていた兄を起こしてしまった様子。今まで自分でしていた事が急に恥ずかしく感じて起きようとするとそのまま肩を抑えられて再度深くベッドに沈み込まされた。もしかしたら兄の事だから起きてたかもしれないし、意外とそんなこともないかもしれないし、そんな事を考えてうろうろと目線を泳がすと兄の口が柔らかい弧を描いていき心臓が握られたように強く収縮した。










「勉強はどうしたんさ?」

「ちょっと・・・眠くなったから、」

「そう」

「うん」










別に本当の理由(だった筈のもの)を言ったのに嘘を吐いているような感覚に陥って何となく心持ち焦る。さっき私がした行動に気付いてるのか気付いていないのか何故そんなに笑ってるのか聞きたい所だけど墓穴を掘るだけだから聞けるわけもなく。なんとなく恥ずかしくて足元に纏められている毛布を手繰り寄せて被ろうとすると兄の手が腰に伸びてきて、










「っや、あはははははっなにっやめってっ」

「勉強終わってないのに寝ちゃダメっしょ」

「やめっきゃーっはっはっはっやめてやめてっやめてえっやっやるからっ」










いきなり擽(くすぐ)られて受身も取れずに只管笑いたくもないのに口から笑い声がもれていく。くすぐったいのが嫌で笑い声の混じった言葉と擽っている大元の兄の手を退けようと抵抗しても中々解放されない。前言撤回、擽られるの嫌いなのにソレを判っててやる私の兄を私はだいッ嫌いだ。ちなみに兄の弱点は何処だか判らないから尚更悔しいし尚更憎たらしくて嫌いだ。










「あっあはははっやめっ兄ちゃんやだっ」

「勉強すんなら許してやるさー」

「するするっするからっしますからっ」










笑いすぎて息が苦しくなり詰まってくるとようやく解放されて、疲れてグッタリとベッドに沈み込む。けれど何時までもそんな事をしていてまた擽られでもしたらたまったもんじゃないから息が上がっているのも気にしていられずに、ベッドから起き上がって勉強を再開しようとした。にも関らず、それは一足遅かったようで、今まさしく起き上がろうとした私の上に兄が覆い被さってきた。まだ息が苦しくて、この際諦めてしまおうかと開き直ってベッドに倒れるとスプリングの反動で微かに頭と体が跳ねた。










「今から、はぁっ、やるから、」

「本当は擽ったがりさね」

「そんなこと言うなら、擽らないでよっ」

「オレが楽しいから無理」

「おーぼーっサド兄貴っ」










まだ荒い息を整えながらどうやら擽られない様だと安心したのも束の間、私の言葉が悪かったのか、こんなんでサドなんて温いさとかなんとか言って笑って見せてきた兄に背筋がゾワゾワと粟立った。ああもしかして何時までもこのままの姿勢で居たら再発するのも時間の問題なんじゃないのかな。










「でもオレはには何時も優しいっしょ?」

「・・・、どうだか、」

「わかんない?」

「・・・え、兄ちゃ・・っん」










大分落ち着いて大きく息を吐くと同時に顔を近づけてこられそのまま唇を合わせられた。優しいっていうならばもうちょっとこう、キスするタイミングとか計ってくれても良いんじゃないかな、と思う。大抵息をする合間が掴めなくて、唯でさえキスをするという行為だけでも私の心臓は早鐘を打つのに加えて酸素不足だなんて尚の事救えない。










「っは、・・・ぁ、え・・・?」

「何さ?」

「もう終わ、っ!・・・何でもな・・い」










何時も一度キスをすると後何度か続けてする事が多いから、一度でやめられた事に拍子抜けしてつい本音が口から滑り落ちた。最後まで言わなかったけれど兄には充分言いたいことは伝わってしまったらしく喉の奥で笑われ、もっとしたいん?なんて聞かれる始末で結局意味が無い。正直な所したいかしたくないかと言われればしたいからこの際もう自分からしてやれと自棄になって自分から兄の首に腕を絡めて唇を合わせた。










「 、・・んん」










私からしたところで最後に笑うのは兄で悔しい反面そうされている事に半ば悦る自分もどうかしてる。けれどこればっかりは正直仕方ない。馬鹿正直な私は嬉しいことは嬉しいと感じて表現してしまう。何度も角度を変えて時たま啄む様にして合わせている唇の生暖かくて柔らかい感触は私の中では気持ちのイイコトとして認識されているから欲に忠実な身体と脳は更にそれを渇望する。それを煽るが如く兄のキスは上手で脚で立ったまましていたならばその脚は震えていただろう。










「っ・・は」










重ねていた唇を離しても私の唇は兄の濡れた舌でなぞられ時たま軽く歯を立てて甘噛みされたりと快楽が止むことは無い。そしてそうしている時の兄の眼は愛欲を貪っている時の様な色を映していて、眼だけで私に多少強迫まがいの訴えを投げかけて来る、例えばキスが長く深くなっていくにつれての場合ならば、口を開いて舌を絡めろ、だとか。そういう当たり前に次に来るであろう筈の行為にさえ一々促しをかけてくる兄に従っているのは紛れもなく私の意思で。










「あ、ん・・ぅぁ・・っ、お兄ちゃん」

「どうしたんさ?」










その促しに従って口を開いて兄の舌を受け入れてしまった後にふと私は自分からその行為をシたがっていたんだ、ということに気付いて、既に2,3回重ねられた舌を緩やかに解いて一度顔を背けた。それに心から疑問を感じたのか兄も一度動きを止めて私を見据えてきた。今更もう後にも退けないし偶には私からしても良いよね?










「起こして」

「ん、・・・勉強する?」










私の言葉に素直に腕を引いて起こしてくれた兄と向き合うように座りなおそうとすると、ベッドから降りると勘違いしたのか、兄はそう聞いてきた。それに私は違うと返して兄の肩に手をかけると自分から再度唇を合わせてその唇を割り中の舌を絡め取った。私のその行動に兄は一瞬目を見開いた後また細め、私の耳へと指をかけて髪を後ろへ梳く行為を何度も繰り返した。その間にも私は兄の舌を軽く吸ったり裏側を舐めあげたりと行為をエスカレートさせていく。










「ッぁ、スるの?」

「スる気じゃなかったん?」

「違、ちゅーだけがいい」

「・・・、それ生殺しって言うんさ」










私の耳や髪を弄っている兄の手の、それとは別の空いている方の手が服の上から胸に触れてきて驚いて身を捩て唇を離した。口端から垂れそうになる唾液を自分の舌で舐めて拭いながら言った私の主張は兄にはかなり酷なモノだったらしく、一瞬心底残念そうな顔をして見せた兄に多少なりとも謝りたくなった。










「ダメ、なら良い・・けど」

「・・・駄目、じゃないさ。・・・多分」










兄のその言葉に嬉しくなり思わず顔を綻ばせると、あんまり過激なことされると抑え利かなくなるかもしれないからお手柔らかに頼むさ、なんて笑いながら言われて今更ながら顔に熱が集まっていく。そんな兄に一つ悪態を付いて唐突に唇を合わせるとまた喉の奥で笑われた。我侭な妹でごめんねお兄ちゃん。心中だけで言葉にすると一瞬目が合った際に軽く微笑まれて今の言葉が伝わったのかと錯覚する。そんな事が有るか無いかは兎も角、さっき兄が私に言った、オレはにはいつも優しいの言葉も強ち嘘じゃないかなと密やかに思ったりした。

































私がどれだけお兄ちゃんを好きでいるかなんて。




これだけは教えてあげる、私はお兄ちゃんが私を必要としてくれている以上に必要としてる。
































(07/03/01) (閉じる)