「お兄ちゃん、あのクマ欲しい」

「お兄ちゃんて呼ぶのやめてくれたら取ったげるさ」










別にオレは悪い事だなんて微塵も思っちゃいないけれど、やっぱり血縁の壁は薄くて高くて、がオレをお兄ちゃんと呼ぶと、たまに咎められている様な勘違いを起こしてしまいそうになる。オレはオレの血の繋がった妹が好きで好きで愛しくて仕方が無い。だからと言って血を憎むことは全く無くて、むしろ切っても切れないこの関係に十分すぎる程感謝してるし、満悦している。










「ラビ」

「ん」

「家の中じゃそんな事言わないくせに」

「外だからこそ言うんさ」










健全な高校生の男女が休日に友人と遊ばず仲良く兄妹でお出かけなんてかなり笑える。それこそ彼女や彼氏が居ておかしくない筈だけれど、それはオレ達には当てはまらない非日常だ。ゲーセンの耳障りな騒音に紛れて変な会話をしたところで誰が聞いてるわけでもなく、何の支障も無い。










「で、どれ?」

「あのオレンジの子」

「おっけー。じゃちょっと待ってるさ」

「・・・何処も行かないってば」










繋いでいた手を離すのはなんとなく惜しくて、それが顔に出ていたのかがそう笑った。生まれた時から一緒にいればそれくらい顔から見れて当然か、と判りつつ、ちょっと厄介だと思うオレがいる。それより前もこんなクマ取ってやらなかったっけ?コイツの部屋は女の子の部屋よろしく、ぬいぐるみだの何だのが所狭しと並べられているのを思い出した。そうと判りつつ取ってやるオレも同罪か。










「やった!」

「良かったな」

「ありがとー、お礼に跡で何か奢るね」

「そんなんよりもうちょっと別のお礼がいいさー」

「お兄ちゃん次プリクラ行こっ」

「聞けよオレの話」










ゲンキンなはクマを取ってやった瞬間からまたオレをお兄ちゃんと呼ぶ。しかもお礼がどうこうよりもプリクラを優先させる様はまさしく我侭な妹だ。惚れた弱みって怖いもんさね、オレの腕をひっぱって歩くが物凄く可愛い。










「あ、そのクマのお礼はほっぺにちゅーで良いさ」

「それでいいの?」

「それがいいの。撮る時にやってよ」

「・・・え、コレで撮るとき?」

「そー」










プリクラの機会の中に入りながらそんな話をしたせいか、自分でオレを引っ張って来たくせには一瞬困ったような顔をして、入り口で足を止めた。それを知りながら、後から機械の中に入ったオレはの背中を押して奥へと詰めさせる。










「ほっぺちゅーは最後でいいっ?」

「何時でもいいさ」










はよっぽど困ってるのか耳の先から少し顔が赤くなっていた。律儀にそうやって聞いてきてくれるあたり、やってくれる気はありそうで、けど撮る度に笑顔がちょいちょい引き攣ってるのが可愛くて笑える。それでオレが笑ったらの照れも薄れたのか、またいつも通りの顔でその後何回かを撮った。










「・・・これ最後じゃね?」

「う、うそ」

「ほんと」

「・・・、お・・お兄ちゃ」

「・・・できなさそ?」

「・・・ごめっ・・んね、」










たしかさっきから8枚程度撮った気がするし、オレがそう言い出すとの顔色がまた変わる。なんでそんな困った顔するかな、照れるのは判ってるけどちょっと傷つくじゃん。ってまさかそんな風に言う事はできないし、第一照れてる時の女の子って可愛いから(のそんな様子を見れたから)本当は全然構わないんだけど。










「じゃあオレがするからは座ってれば良いさ」

「えっ」

「あ、もうカウントダウン始まってる」

「ええっ?ちょ、あっ」










の手を引っ張って中に備え付けの椅子に座らせて、隣にオレが間を詰めて座るとはさっきよりも困ったような顔をして見せた。業と話が終わる前に撮影スタートのボタンを押したのに、それさえ気付かないはどんだけ恥ずかしいんだろう。オレなんてほっぺにちゅーじゃ足りないし正直言えば普通のちゅーで撮ってもいいと思ってるんだけど、・・・あ、それいいかも。










「・・・。逃げちゃダメさ」

「だって急すぎるから、」

「次逃げたらオレ泣いちゃう」

「私が泣きたいよっ」










変な事考えながらに顔寄せたから、シャッターの音が鳴った瞬間にに逃げられた。今のオレってかなり無様。もうこの際本気でちゅーでいいや。どうせ真横からちゅーしてるトコ撮ろうなんて思ってないし、早々に次の撮影を告げる音声が聞こえるから、の手を引いてまた椅子に座らせる。今度は逃げる気もないみたいだけど、その代わり体がガチガチに緊張してる。










「もうちょい笑うさ」

「無理言わないでよっ」

「・・・まあ笑う必要も無いか」

「なに、なんでそんな・・っ!?」










横から顔を寄せて喋るオレに、若干顔を退きながらそう言うの言葉半ばで唇を合わせた。勿論、カメラから見たらオレの後頭部が写るだけ。その後1,2秒遅れてシャッターの音が響いて、次は撮った写真を選んで落書きがどうのこうのだから部屋を移動しろという音声が聞こえてくる。けれどオレは唇を離すことはしなくて、驚いて口が開きかけているの口内へ舌を差し入れた。










「んッ ん、」










慌てて唇を閉じたは、逆にオレの舌を挟んでしまった事に気付いてまた慌てて唇を開けて手でオレの肩を押してきた。の柔らかい唇に舌が挟まれた瞬間、思わず勃ちそうになった事は言えるわけはなくて。けれどまさか此処で始める気も毛頭無いから、ほんの少し舌を絡めて、上顎をなぞって唇を離した。










「っ、は・・」

「移動するさ」

「う・・うん」










何事も無かったかの様に振舞うオレに圧されてるのか、または多少快感でも覚えたか、は惚けた顔をして返事をした。それを見ながら見ていないフリをするオレの頭はに対しての可愛いという言葉で一気に溢れかえる。こんな反応が見れるなんて予想してなかったからまた来た時にやってしまいそうだ。





















***





















「次何処行くさ?」

「あ・・何処でも良い」

「どしたん?具合でも悪くなった?」

「平気、だけど、」

「・・・遊ぶのやめて家帰る?」

「・・・うん」










結局プリクラを撮った後から可笑しくなったと家に帰ることになるのはそんなに時間がかからなかった。家に行ったらとりあえずさっき撮ったプリクラをに半分あげてまたその反応を見ようとか、オレの頭ン中はをイジメル事でしか埋め尽くされていない。










プリクラが出来上がったのにも関らず、ソレを気付かないふりをしてクマを弄っていたが可笑しくて可愛くて仕方が無い。いつもだったら自分から取りに行くし、仮にオレが取れば見せてと言ってくるのに。ちゅーぐらい何時もしてるのに、そんなにアノ機械の中でした事が恥ずかしかったのか、今繋いでいる手がいつもより熱く感じるのは多分気のせいじゃない。










抜けない引出しの
ふとした瞬間に抜けたら初めて見る一面










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