愛しいと想えるモノは全部口にいれてしまいたい、そういうのってどういう気持ちの表れなんだろう。
「う、わっ」
「何でもないから気にしないでいいさ」
「? はあ・・・」
午後の談話室のソファに座って本を読むの隣に腰掛けて思い切り肩を抱き寄せてそう言った。目の前に居るとずっと触れていたいし、目の前にいなければ姿を探してウロウロとしてしまって最近"なにか"に飢えている気がして、自分自身でもどう対処していいのか判らず兎に角の傍から離れられずにいる。はオレが座ったことで少し沈んだソファに体制を崩しかけながらも、最近数日のこの事に慣れ始めているのか呆れ始めているのか、特に気にもとめずに、また背もたれによりかかり直して本を読み始めた。
「・・・。」
沈黙から沈黙。きっとソレはオレだけが感じていて、の中では目から入っていく文字が飛び交っているんだろう。本を支える細い手首だとかページを捲っていく指先だとか、目の前にある耳やら髪、今は下向きの瞳やらたまに何か呟く様を見せる唇に眼が行く。ただそれをぼう、と見ていると、特別なにと言ったわけでもないが、なにか、したくなる。好き過ぎて愛しく思えすぎて、なにか、せずにはいられない衝動が歯がゆさを持ちながら追い立ててくる。
「っひ、な なに?!」
「あ・・わり」
一瞬思考が吹き飛んでの耳をひと舐めした上に耳朶に噛み付いてしまった。それに驚いて本を落としオレから体を離して耳を押さえてオレをみるに、オレ自身もハッとして、何て言ったらいいかわからなくてとりあえず謝ってみた。自分でもどうして急にそんな事をしたのか理解できなくて、無性になにかしたくて、オレの方がぽかんとしてしまった。
「ぐ・・・具合悪いの?」
「悪くないんだけど、何か」
「何かって・・・?悩み事とか、あるの?」
「そんなんじゃなくて、」
「?」
本を拾いつつさり気無く少し離れた所に座り直したにいささか機嫌が悪くなって、間を詰めるようにしてオレも座りなおした。そしてまた向こう側の肩に手をまわして抱き寄せて、の頭の上に顔を埋めて自分でもよくわからないこの飢えている感情を抑えようとする。
「ラビ?」
「んー・・・。」
「部屋戻る?」
「・・・。」
「ココにいる?」
「・・・わかんないさ」
「わかんない?」
「わかんない」
困った様に問いかけてくるにいささか甘えるようにして曖昧な言葉を吐いた。実際オレ自身もどうしたらいいかわからないから質が悪い。わかってるのは、今はとくっついていたいと思っている事だけ。無性に傍にいたくて、意味も無いけど触れていたくて、仕方が無い。
「どうしちゃったんだろうね、ラビは。」
「オレもよくわかんないんさ、ほんとに。」
「困ったね」
「ん・・・。困ったさ。」
の頭の上に埋めていた顔をズズズと下に移動させて首筋近くまで行き、小さい肩の上に頭を乗せた。そんなオレにどう対処していいのか悩んだは、オレの髪の毛をクシャクシャと撫でた。本人さえどうしていいのかわからないのに、本人じゃないにわかるはずもない。
「何かしてほしいことは?」
「・・・。を口にいれたい」
「・・・口?私は大きいから、ラビの口には入らないよ」
オレが素直に言った言葉に、少し笑いながらまたオレの髪を撫でるに、もやもやとした気持ちがぐるぐると渦を巻いた。確かにオレの口に入りきるわけがないし、口にいれてどうこうできるわけでも無いんだけれど、何て言うんだろう。食べたいっていうよりはもっと優しい感じで、抱きしめたいっていうのよりはもっと強い感じで、ああもうよくわからない。どうやったらこのもやもやは晴れてくれるだろう。
「じゃあちゅうしたい」
「それならできるけど」
「じゃあして」
「え、ココでは嫌だよ。部屋戻ろうよ」
「・・・。」
部屋に戻るために立ち上がったに、オレはどうも立つ気にはなれなくて、座ったまま立ち上がっているを見上げた。は立ち上がるように催促するけど、どうもそれにノる気にはなれない。けれどいつ人が入ってくるかも判らないココで、がオレにキスされてるのを見られるのも嫌だし、仕方なく思い、重たい腰を上げてに引っ張られるようにして部屋へと歩き出した。
「なあ」
「なに?」
振り向いたに間髪居れず唇を合わせて、腕を引っ張って抱きしめてもう一度唇を合わせなおした。どうも部屋まで我慢できなかったオレは、そのまま暫く唇を重ねた後、の唇を舌でなぞって頬と瞼と額にキスした。は心構え無しにされた事に驚き、体を硬くしたまま顔を紅潮させた。その様が愛しくてまた唇を合わせる。
***
「誰か来ちゃってたらどうす、ッ
ラビ話のとちゅ
う
やめ
ねえっってば!!!!!!」
「? なにさ」
結局一時中断されて部屋に戻って今に至り、ベッドに座っての話を聞くはず・・・もなく、の言葉を遮ってまでせわしなく唇を合わせたけど、胸をぐっと両手で押されて体が離れて、それはまた一時中断された。オレが問いかけると不機嫌そうにこっちを見てくるが、話してる最中くらいしないでと主張した。今のオレにはかなり無理な話だ。
「話聞いてくれないなら私また談話室戻る」
「え!?それはイヤさー!!!」
無理と言ったオレに、立ち上がって部屋を出て行こうとする。そのの腕を掴んで阻止するオレは、本気で今出て行かれたら、なんつーか、凄いへこむと思う。だから自分自身なんか必死になってるのが笑えるけど、もう仕方が無い。
「じゃあ話」
「聞くさ、聞くから、・・・じゃあ今度は膝枕して」
「・・・は?」
「ちゅうしないから膝枕して」
「・・・はい?」
甘えすぎたか、と一瞬後悔したけれど、は少しぽかんとした後諦めたようにベッドに座りなおし、自分の膝をぽんぽんと叩いた。それに嬉々として寝転がるオレ。なんかもう男のプライドとかは今は一切どうでもいいと思っているオレがいる。
「・・・今日は特別変だねラビ」
「が好きすぎてさ」
「さいですか」
「さいです」
で結局の脚が痺れるまで膝枕してもらっ(て半ばウトウトし)たオレは、夕食頃には何事もなかったかのように、気持ち上の飢えも無くなっていつもオレになった。
無性に君が
恋しくなったとき、
たくさん抱きしめて たくさんキスして たくさん触れていたいから オレの傍から離れないで
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