「・・・ビ・・・ラビ?聞いてるんですか?ラビ?」

「あ・・何?わり、聞いてなかったさ」

「・・・、最近変ですよ?大丈夫ですか、って聞いてるんです」

「・・・んー・・・ちょい寝不足かもしれん・・・?」

「何自分の事なのに疑問系にしてるんですか」










朝、今日も見つけたけど目で追うだけで動くことができない。食堂の席に座りながらオレは放心したかのように手の上に顎をのせてぼんやり眺める。名前は知らない。黒髪で黒目で東洋系の顔立ちをしているからきっとユウとかリナリーとかと同じ圏内出身だろう。目の前のアレンがぶんぶんと目前で手を振るまでその呼びかけに気付く事はなくて、アレンに向き直ったつもりでいても目線はあの子。適当に最近ぼけている理由を言うとアレンに溜息をつかれた。










「悩み事ですか?」

「まあオレにも色々あるんさ」

「・・・、僕もう鍛錬しにいきますけどラビは?」

「あー、オレはこれ食いきったら行く」










アレンが何時もながらの大量の食事を終えた頃だというのにオレの手元のグラタンは半分以上残っている。食う気はそんなに無くて、事務的な動作で口に運んでいくけれど味さえもよくわからない。少し机を揺らして立ち上がったアレンに軽く手を振って、目線はまたあの子を探す。オレってこんなに奥手で意気地無しだっただろうか。こんなに毎日目で追うほど気にしてるのに一言も声かけられないなんて。










「・・・」










あ、こっち見た?今のは目が合ったんじゃねーの?ってこれくらいの事で浮かれるなんてどんだけ餓鬼なんだか。けど途端に胸中を覆いつくしていく嬉しい気持ちには自分自身で苦笑いするしかなくて。










「ふー・・・」










恋煩いなんて言葉が頭を巡ってグラタンを掬い取ったスプーンをまた皿に戻して溜息をついた。あー話してみたい。もっと近くで声聞いてみたい、オレにはどんな風に喋るんさ?もうちょっと近くで見てみたい。オレの事を気にかけて欲しい。欲はあるのに体が動かない。こんなに見てると逆に変質者っぽくねえ?だけどそれに気付かないあの子も結構鈍いさ。










『・・・!・・・、・・・』

『・・!・・・おはよ・・・、・・・』










あ、知り合いなんかな、アイツ、いいな、羨ましい。あの子の近くに同年代くらいの男のファインダーが寄っていって声をかけた。それに笑顔で返すあの子もまたファインダー。とっかかりとか切欠が無いと動けないなんてオレらしくないんじゃねえの?周りの人間の談笑の声から切り取られたようにあのこの声だけが微かに聞こえてくる。










「あー・・・」

「ラビおはよう」

「あ、リナリーおはよ」










小さく呻き声をあげたオレの頭上からリナリーの声が降りかかってきた。リナリーは相変わらず今日も可愛くて、同じ東洋系の顔立ちのあの子を重ねて見させる。できるならあの子と友達とかだったりしないだろうか、そんな事さえ聞けないオレって莫迦だ。また無意識に溜息を吐いたオレにリナリーの顔が疑問を抱いた様な顔に変わる。










「どうしたの?具合悪いの?」

「いや、考え事さ。心配してくれてサンキュー」

「そう・・?うん、無理はしないでね」

「おー」










そう笑ってジェリーの元へ行くリナリーにも軽く手を振って返した瞬間、近くであの子の声が聞こえて思わず体が硬直した。リナリーと話している間に移動したらしくて何処にいるんだろうかと目で探してしまう。見つけた瞬間結構近くてまた嬉しい、その代わりに心臓が不要な程脈を打って体が熱くなる。










『・・・・今日・・・・スケジュール・・・?・・・・俺は・・・で・・・』

『・・なの?・・・私・・・でコムイ室長・・・手伝・・・と思・・・』










周りの雑音に所々掻き消されながらも聞こえてくるその話し声は確かにあの子の事をと呼んで、と呼ばれたその子からは確かにコムイの名前が出てきた。これってもしかしてチャンス?今日はコムイんとこ行ってみよう。そしたら偶然を装うくらいして名前確認したり少し話たりはできるかも。やばい顔がにやけそう。早くこれ食いきってとりあえずアレンに今日は鍛錬しねえって伝えにいかなきゃ。










今までのスピードが嘘のようにオレはグラタンを掻っ込んで食べきらせてジェリーに忙しくご馳走様と言ってアレンがいるであろう鍛錬場に向かった。もう少しその場に留まって居たならば更にちゃんの声や話が聞けたかもしれないけれど、オレはその間近に居ても手の届かないちゃんよりも、先にコムイの元に行って目先に訪れると良いなと思う未来を待っていたくて仕方が無かった。やっと動き出してくれたオレの体、この行動がどうか吉と出ますように。





















もどかしいこの想いに


どうか今日こそ終止符を






















(07/02/27) (×閉じる)