最近俺にはライバルなるものが出来た。主にとの関係的な意味で。しかもそのライバルを作ってしまった原因は俺自身。正直あれをライバルと認めていいものか否か、しかしながらとの時間を確実に削られているのを見ればライバルというしかない。










ああほら今もまた。目の前でがパソコンから流れてくる歌声に聞き入っている。










最初はただ気まぐれにやっていたとネットサーフィン。とある動画サイトのボーカロイドなるものを、興味本位で開いてみただけ。途端、パソコンから流れてきた酷く人間らしい機械の歌声に、はまんまと魅了され虜となってしまったらしい。




「うわ、すごいねえ、これ!」

「そうさねえ」

「これ、どうやってるんだろうね?」

「さあねえ」

「機械だけど人間みたい」

「まあ元が人間の声らしいからな」

「凄いなあ、」

「他にも色々いるみたいさ。聞いてみる?」

「うん!」




今思えばこの時に「色々」を聞きにいかなけりゃ良かったんさ。
ボーカロイドには女の子、女の子と男の子の双子、お兄さん、お姉さん、侍・・・?とまあ色々なタイプがあった。それぞれがそれぞれの個性で、調教なるものをされて出来上がった歌声を何処か自慢気に披露していた。(まあ自慢気なのはアップロードしてる奴だろうけども。)
そんな個性燦々な中でもは一番初めに聞いた女の子のボーカロイド、初音ミクを気に入ったらしく、暇さえ出来ればオレの部屋に来てパソコンを立ち上げている。まあ一緒の空間にいることは増えたは増えたけど、の関心はもっぱら画面向こうなわけで。無機質物相手にやきもちなんかやきたかねーけど、の夢中っぷりを見るとやきもちもやかざるをえない。




「私も自分のパソコン欲しいなあ、またバイトしようかな」

「・・・」




は画面向こうのミクと一緒に歌いながらそんなことを呟く。
正直そこまでとはオレも思っていなかった。もう色んな意味で絶対絶命。がバイトして貯められる額なんて分かりきっているが、肝心なのはがバイトしてオレとの時間が更に無くなること。(オレ自身もバイトはしてるはしているけれど、正直そこまで切羽詰ってやっているわけでもないし。)それからバイトとかしてに変な虫がつきやすくなったり、して・・・ああ、それは考えただけで腸が煮えくりかえりそうさ。




「ねえお兄ちゃ・・うわ、」

「マジでバイトすんの?」




徐にパソコンから振り返ったは、オレが近くまで寄っていたことに気づかなかったのか些か驚いた顔をしてみせた。でもまあそんなことに一々触れず、オレはに詰め寄るようにして問いかける。の向こうの画面からは、可愛いらしい曲調に乗ってミクがさも楽しそうに歌っている。その曲とオレの今の心境の不釣合いさったらこの上ない。




「え?ああ、うん。だっていつまでもお兄ちゃんのパソコン」

「そんくらい、オレとしては全然いいんだけど」

「・・でも」

「でも?」

「・・・お、お兄ちゃん何か怒ってる?」

「・・・。別に怒ってないさ」




ちょっとご機嫌がナナメなだけで。
そう言ってオレが笑顔を見せてやれば、はひきつった笑顔を返してきた。さぞにとっちゃ意味不明だろうけれど、オレはいたって真面目である。
真面目ついでにパソコンの画面を切り替える。1分も経たない間に、今度はオレが好んで聞いているアーティストの歌声が流れ始めた。好んでると言っても今の状況じゃただのBGMにすぎない。ボーカロイドじゃなければ何でもいいのだ。




「何でご機嫌がナナメなの・・?」

は何でだと思うさ?」

「え・・っと・・・」




オレによって切り替えられてしまった画面をチラりと見ながら、それでもオレのご機嫌ナナメの原因を考えてくれる。常にそうやってオレのことだけ考えてれば良いのに、と割と本気で思う。束縛だの重いだのこの際もうどうでもいい。




「や、やっぱりお兄ちゃんのパソコン占領してたから・・・?」

「パソコン占領すんのは良いっていったさ」

「じゃあ・・バイト・・・?」

「・・・半分正解」




何処かおどおどした色を含ませてオレを見る目がひどく可愛く思えて、にやにやと締りのない笑い方をしそうになる。やっぱりこういう僅かな会話でも大切にしたいんだ、オレは。
パソコンの前に座っているを横抱きに抱えあげてベッドに落とす。




「な、なに?」

「ん?」

「え?あの、・・・ひゃっ」

「・・・どうしたんさ」




オレも隣に座り込み、に覆いかぶさる・・・わけではなく、の向こう側に置いてある読みかけにしていた雑誌を取る。一瞬だけオレの体の影になり、身構えるように目を瞑ってみせたが何処かおかしくて、可愛くて笑った。
もしかして、何か勘違いしちゃったんさ?




「し、してない!」

「ふうん? ・・・ま、それはいいから、女の子座りしてくれるさ?」

「? 何で」

「早く」




有無を言わさないよう急かせば、は変な顔をしたまま足を崩して座った。オレはその膝に頭を乗せて、横になる。まあ要は膝枕。と言えば、唐突に膝枕をするハメになり何処か落ち着かないようで。




「お兄」

「あんまりミクばっかに構ってないで、オレにも構うさ?」

「え?」

「返事は?」

「は、はい」

「いい子」

「・・・って、ちょっとお兄ちゃん」

「何? バイトはすんなさ?」

「う、うん。・・・じゃなくて、」






オレのご機嫌ナナメが真っ直ぐになるまで、責任とって膝枕してね。




最後の最後までまともに発言させないで喋り倒したおかげか、は若干諦めたように笑ってみせた。ついでに頭を撫でてくれるというおまけ付き。流石生まれてからずっと一緒に居ただけあって、オレの扱いには慣れて・・・きた?ようさね。まあオレが上な限り、完全に扱い慣れることは無いと思うけど。










――数十分後。










「お、お兄ちゃん」

「ん?」

「ミクの曲・・・」

「・・・聞きたい?」

「う、うん。・・ダメ? 1回聞くのにつき、ち・・ちゅう1回とか、何かするから・・」

「・・・」




もしかして、オレの扱い方完全に理解してきたさ・・・?



















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