「・・・ な に か あ っ た の ?

「・・? お前の母国語で話されると何言ってるかわからんさ。」










 私が少し早口の母国語でボソリと言った言葉を、隣に座っていた彼はしっかり聞き取っていたようだ。










「ごめん、つい。なんでもないよ。」

「ええ? 何さ?」

「ほんとになんでも。」










 伝えるまでも無い迷惑なお節介か、唯の好奇心か。口から滑り落ちるようにして出てしまう言葉ってあるでしょう?たまたまそれが私の母国語で、君には聞き取ることが出来なかっただけで、私と君の母国語が違っただけで。










「なんか・・そういうのって気持ち悪いさ。大体、言葉って相手に伝わらなきゃ意味ないだろ?」

「・・・まあね。でも、ラビだって相手に伝われば良いと思うけど、別に言うまでのこともないかな、って思って言わないことだってあるでしょ?」

「・・、ないさ。」

「うそだ、今ちょっと思い当たったでしょ?」

「・・・話変えようとすんなよ。」










私の言ったことに言葉を詰まらせた君を茶化すと、君はそれに直ぐ気付いて話を戻そうとしてくる。実質片目だけしか見えていないのに、その片目だけでしっかりと圧力をかけてくる彼に苦笑いするしかなかった。
 だって誰だって必要以上に自分のことを探られるのはあまり好い気がしないじゃない。










「じゃあ、さっきの言葉は結局オレには伝わらなくって良いってことさ?」

「うん。」










 不必要なお節介は関係を悪くする。とたえそれが世界を救うために集められた使徒の間でも、結局は人間であるから変わらない。それに君の場合はは使徒である前にブックマンという、いつかはここから流れていく人間だから尚更のこと。ラビが通り過ぎるだけの人間だとは思いたく無いけれど、相手が必要以上の干渉を望まないならばそれは唯の私のヒトリヨガリに過ぎない。そんなことを押し付けて迷惑に思われるよりも、一時の楽しい時間を共有していた方が数倍印象は良い筈だ。たとえ深い関係になれなくとも。










「んー・・念のために聞くけど、」

「うん?」

「さっきの、オレの悪口だったりするん?」

「・・・、」










 少しだけ不安気な顔で聞いてくる彼に、思わず破顔して噴出してしまった。悪口、どんな心配をした上で私にそんなことを聞いたんだろうか。それを考えただけでも可愛く思えて笑ってしまう。
 笑い事じゃないと半分怒る君に私は謝り、そんなんじゃなくて、ただの私の変な願望だから気にしないでと返した。変な願望。自分でそう言った後に願望という言葉に引っ掛かった。私は君には必要以上の干渉はしないと決めていながらもそれを護れないでいるらしい。私は、彼に必要以上の関りを望んでいるのか。
 何処までを心配という言葉で干渉していいのか、果たして私はそれが許される人間なのか。立った一言の他愛ない心配の言葉でさえ、彼に対しては言うのを躊躇う。










けれど結局私はいつもと同じで何も進退することをしなくて。





















この平行線は





















(07/07/07) (閉じる)