「なあアレン」

「なんですか?」

「オレって見た目とか、性格?とか・・怖い?」

「・・・。どうだろう」









食堂に向かう途中、唐突にそんなことを聞いてくるラビがあまりに真剣な顔で、本来なら笑いそうな台詞だけれど僕まで真剣に考え込んでしまった。どちらかと言えばラビはタレ目で人懐こい顔立ちをしているし現に人との接し方も物腰柔らかく感じは良い。僕に初めて挨拶してくれた時も笑顔だった。初めて見た時に怒ったりしていなければ別に怖がる対象に入ったりはしないだろう。









「何か悪いことしたんかなー」

「ラビ、話がつかめません」

「あー、なんかさー・・・ってオレ見る度に泣きそうな顔するんさ」

「・・・さんが?」

「ん、が。」









何処か遠くを見ながらそう言ったラビの顔は珍しく落ち込んだ様な顔になっていた。さんは僕達と同じくらいの年で同じエクソシストで彼女もまた人懐こく物腰は柔らかい。というか常に笑っている様な人でそんな彼女の泣きそうな顔なんて僕には想像すること自体が難しい。けれどラビが言うには、ラビの前では笑っているよりも常に今にも泣きそうな顔をしている方が多いらしい。まったくもって僕には理解しかねる域の問題だ。二人の間に何かあったならば未だしもラビは別に何もないと言う。









「噂をすれば影」

「え? あ。」









食堂について早々、ラビがぼそりと呟いたので前を見ればメニューを見て何を食べようかと考えているさんが目に入った。丁度今日は彼女も任務が無かったのだろう。昼時だから食堂に居て可笑しいことなんて無い。一瞬だけ声をかけようかと思ったけれどラビの話を聞いた上でそれをすることは躊躇われて結局僕の口からはそれ以上何も出なかった。まさか目の前に本人が居るのにさっきの話の続きをするわけにもいかない。食堂の入口で立ち止まる僕達の横を何人もの教団メンバーが通り過ぎていった。どうしようかとラビを見ると取り合えず並ぼう、と言われジェリーさんが注文を聞いている列の最後尾へと向かった。けれどそこに行くまでにはさんと嫌でも顔を会わせることになる。









「あ、アレン君、とラビ・・こんにちは」

「こんにちはさん」

「ちはー」









最初に僕が視界に入ったさんは僕の後ろへと目を向けたその一瞬だけ眉根を寄せて直ぐに笑顔を取り繕いそう挨拶してきた。ああ本当だ、僕1人で話しかけた時にこんな表情は見せない。ほんの一瞬だけだったけれど確実に表情が強張った。意識しなければ見逃してしまう程の僅かな表情の変化。ラビはそんなさんに何時も通りの人懐こい笑顔で挨拶をした。









「アレン君たちも今からご飯?」

「そうです、宜しければご一緒しても?」

「うん、こちらこそ」









僕と話すさんを見るラビの目は、あまり穏やかには見えなかったけれど、相変わらずの柔らかい表情や雰囲気は変わらず、さっきまでの真剣で少し落ちこんだような面は見せないラビに些か不自然さを感じる。それからさんとラビは普通に話をするものの、ラビのさっきの話を聞いた上で目にする彼らの会話は実にうそ臭く見えたりしたが、多分これは僕の思い込みだと思う・・・ということにしておこう。中々進まない列に他愛も無い話は永遠と続く。









「ああ、それで昨日コムイさんの部屋が綺麗になってたんだ」

「そうなんさー。もうオレくたくた」

「お疲れ様だねラビ、 アレン君もコムイさんの部屋片付けしたの?」

「いえ初耳です。っていうか今日もう既に何時も通りだったので気付きませんでした」









時折笑ってみせるさんの顔は僕が何時もみる顔で先程から何も変わらない。いい加減ラビの思い込みなのではと疑ったその瞬間、埃がついてると言ってラビがさんの髪の先に触れた。そこから一変したさんの表情はまさしくラビの言っていた通りの今に泣きそうな顔で、その後もさんはなんとか口からお礼の声を絞り出している様に見えた。内心驚いている僕にラビが視線をよこして目で訴える。ほらな、多分そう言ってるんだと思う。だけどラビ、このさんの顔って泣きそうだけどそれ以上に・・・









「あ、席空いたんで僕場所とってきます」

「ああ、じゃあお前の注文聞いといてやるさ」

「お願いします」

「あんまり量大目に言わんでね、持ちきれんから」

「はい」









僕の言葉に途端に更に泣きそうな顔になるさんに、なんとなく確信する。ラビは特にさんの表情の変化に触れることもなく、さんに運ぶの手伝ってさ、なんて声をかけているけれどきっと心中穏やかではないだろう。ラビに一通り注文を伝えた後席に座りぼんやりと未だに並ぶ二人をみる。なんとなくだけれど確かな確信。きっとラビには泣きそうな顔にしか見えてないんだろう。かわいそうなラビ。









さんは君に惚れてるんじゃないですか」









肘をついてその上に乗せた顎をカクカクと動かしながら小さい声で呟いた。ラビも結構鈍いところがあるんですね、ブックマンの見習いのくせに、女慣れしてそうなくせに。多少皮肉った言葉を続けて言ったら、並んでいるラビと目が合って肩を竦めて見せられた。正直僕は君がこんなに鈍いなんて思ってもいなかったので要らない心配をした様でなんだか損というかまったくの取り越し苦労で。本人は気付いていなくとも惚気を聞かされた様で少しだけ腹が立ったので、バカですか貴方は、そう口パクでラビに伝えると間抜けな顔をして返された。



















これこそ恋は


隣にいる彼女の顔をブックマン得意の洞察力でよく見てください。席に来たらこう伝えてやろうかと思ったけれど、なんとなく助け舟を出してやるのが気に喰わなくてまだ暫く黙っていようかとほくそ笑んだ。そしてもう1つ、さんもラビ自身も気付いていないであろう事。ラビの洞察力に優れた眼がそんなにも役に立たないなんて、意外とラビもさんに惚れてたりして。・・・考えれば考えるほど莫迦馬鹿しい。本人達が自ら気付くまで絶対に助け舟なんて出してやらない様にしよう。ああ僕って意外と意地が悪いんだ。





















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