空は日が落ちきった直後で、遠くの方が紫と紺のグラデーションになっている。






 今回の任務は愛しい愛しいとの2人でオレとしては大満足。目的地に着いて多少の情報を見聞きして回ったが多分此処はハズレ。明朝の早いうちに教団に帰るとコムイに連絡したのはついさっきのことで、オレはを先に宿へと帰した。念のために最後にもう一度だけ街中を見ていこう、そう思って巡っていた途中、オレの目についたのは歓楽に飾された遊郭が並ぶような場所だった。
 オレはを裏切るつもりでも何でもない。は今生理中でセックスはお預け、だけれどオレは若いから。ただその一言で片付けられるであろうことをするだけ。溜まっているものを吐き出せればそれでいい、それだけを考えてオレは1人の人間を買った。






 こういう、素性も何も知らない遊女のような人間を抱く場合に限って言うと、正直喉の奥に留めたような喘ぎではあまり興奮しない。演技くさくても構わないから多少大きい声で啼いてくれないと、オレの気持ちは高揚しないし吐精も近くならない。舌を絡めるキスでも胸への愛撫でも何でもくれてやるから、きっちりオレをイかせてくれないとさ、抱く意味が無いねぇじゃん。
 でもオレも人間だから、がいるのに、とか、任務の最中であるのに、とかの背徳を感じることもあるわけで、無意識的にとは真反対のような人間を選んだりする。結局こんなささやか過ぎる逃げ道はあまり意味を持たない。













――。













「ただいま」

「おかえりー」






 ユニットバスの開いた扉の奥から聞こえた声に自然と脚がそっちに向う。中を覗いてみれば、風呂から出たばかりなのか、鏡の前で髪を拭くがオレを見て笑っていた。どうだった?、ん、やっぱり何もなかった。そんな遣り取りをしながらオレも風呂に入るためにタオルを掴んでシャワーカーテンをひく。
 出来ればオレが出るまで、がそこで髪を拭きながらオレとの他愛ない話に付き合ってくれれば良いと思って、カーテン越しにも関らずに喋りかけるのをやめられない。






「そういえば晩御飯食べてないね」

「言われて見れば腹減ったさ」

「売店で何か買ってくるよ」

「え」

「ラビは何食べたい?」






こういう時に限ってタイミング良くオレの気持ちに反するような展開になる。飯も欲しいけど今はそれよりにそこに居て欲しいのに。
 今にも出て行きそうなに、シャワーを止めるのも忘れてオレはカーテンを開けて手を伸ばした。






「ぎゃ! な、な!?」

「飯は一緒に買いにいく、」

「わ、わ、わかった! わかったから早くカーテン閉め、!」






そりゃまあ何度抱き合ってるって言っても唐突に裸を晒したりしたらの顔も紅潮するよな。
 焦った行動の後にも関らず意外と冷静な頭の中はそんなことを考える。濡れた手のまま掴んだの腕は未だ湯上りの名残か温かく、自然と力が篭って自分の方へ引き寄せてしまう






「こ、こんどは何!」

「キスしたくなったさ」

「ご冗談を・・・!」






ズルズルとオレに引き寄せられて、跳ね返りのシャワーのお湯に少しずつ濡れていくの頬に手を這わせると、の体が硬直する。
 やっぱり他人じゃ物足りなかったらしい。どう考えても判りきっている結果だったのに、何でオレはあの遊女を抱いたんだろう。・・・、まあそれのおかげで1回抜いてあるから少しは違うんだろうけど。彼女との性交が悪かったわけじゃない。でもソレは、オレの精神的な欲望を埋めるどころか更に酷くしてしまった。













 埋まらない、尽きない。













ゆっくりと唇を付けた後に、上唇、下唇と交互に食むようにして啄む。合間に唇に入り込んでくるお湯の味との味が、オレの後頭部を焼いていく。唾液を乗せた舌で唇をなぞりながら口内に侵入する。硬い歯と柔らかい舌を堪能しながら、の腰に手を回して引き寄せる。ぬるぬると頬の裏を舐めあげてやると、喉の奥から声が漏れた。






「・・・んん、」






の喉の奥に留めたような声は、オレを酷く高揚させて、気持ちをハイにさせる。遊女やら何やらと自分の恋人を比較するのは宜しいこととは言えないないだろうけど、それが現実であり、オレはその現実が嬉しかったりする。
 勢いが増して歯がガチガチとぶつかるようなキスをして最後に唇を軽く吸って離せば、完全に腑抜けになったが上目気味にオレを見てくる。






「・・、ぬ、濡れる、」

「・・・。下が?」

「そ、うじゃなくて服とか体とか髪とか顔が!」

「ははっ」

「いいからカーテン閉めて!」

ちゃんー続きはー?」

「とりあえずお風呂か上がって!」

「上がったらしても良いんさ?」

「そうじゃない!」





















君でなら埋まる、


 けれどやっぱり君に対する愛とか欲望は尽きることはない。





















(07/09/17) (閉じる)