「お兄ちゃん起きてー」

「う・・ん゙ん、」






休日の早朝、部屋の扉が唐突に開いたかと思えばオレの背中に衝撃が走る。うつ伏せで寝ていたオレの背中に、が肘か膝か、兎に角そういう部位を乗せてきたらしい。呻るオレを余所に、はオレをガクガクと揺さ振り起こそうとしている。
一瞬だけ内臓が出そうだったさ・・・と、今もある背中の重みを感じながら、その重みの原因である大した年齢差もない妹に、どうしてこんな休日の早朝から元気なのか小一時間問うてみたくなった。






「ねえ、お腹減った」

「・・・自分で作れるっしょ」

「私よりお兄ちゃんのが美味しいんだよ、ねー朝ごはん作ってよー」






顔だけ動かしてベッドの横に立つを見ると、はオレの目線に合わせて床に膝をついて覗き込んできた。
よくよくを見れば、こんな朝からバッチリ服も着替えて髪も整えている。今日は友人と何処かに遊びに行くんだろうか。眠気と妹の可愛さを計りにかけてみると、危ういことに今のオレは眠気の方が勝りそうである。
また目を瞑りそうなオレには少し大きめにした声で尚も喋りかけて来る。・・・。この状況で寝られる奴が居たらオレは尊敬しよう。






「はあ」

「あ、ご飯作ってくれるの?」

がそう言ったんだろ」






いい加減もう寝る体勢にはなれないか、と漸く諦めて体を起こしてベッドに座って欠伸をひとつした。起き上がったオレに嬉々としてそう言って来るに、少々の憎らしさと可愛さを感じながら頭を撫でてやると、擽ったかったのか少しだけ身を捩って笑った。
甘やかしてるつもりは無いけど、これって甘やかしてるって言うよなあ。






オレがベッドから降りて洗面所に向かおうと歩き始めると、は雛の様にオレの後ろに付いてきて、終いにはオレの背中に抱きついたままズルズルと歩いている。
胸とか太腿とか当たるほどくっ付いてくれて、オレとしてはかなり嬉しいんだけど、やけに今日はのご機嫌が宜しいので逆に不安になってくる。唯でさえ寝起きの悪いがコレなんだから余計に。






「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「んー?」

「ご飯食べたらゲームしよ?」

「・・・お前、さ、友達とどっか遊びに行くんじゃねえんさ?」

「・・・へ? 行かないよ、今日そんな約束無いもん。」

「・・・。じゃあ何でそんな洒落てんの」

「別にお洒落なんてしてないよ」






洗面所に着いてもくっついているを、(名残惜しいけど)強制的に離すと歯磨き粉を手渡されながらゲームに誘われた。
何、じゃあオレは飯作った後も解放されないってことさ?二度寝しようとか秘かに考えてたのにそれはどうやら叶わない様だ。
オレが歯を磨いてる最中も何かと喋りかけてくるに、本当に今日は機嫌が良すぎて雹でも降ってくるんじゃないのか、と空を見て疑った。ていうかまた抱きつかれるし。オレは歯磨いてんだから、肘とかぶつかったら危ないだろ。






「で、何食べたいって?」

「何でも良い」

「・・・、何でも良いが一番困るんさー、ちゃん」

「じゃあねー、」






今度は顔を洗いながら抱きつかれる。バシャバシャと五月蝿い水の音の向こうで、が呻りながら朝食のリクエストを考え込んでいる。
オレはというと、顔を洗いながら、実はもうソレどころではない。朝から勃ったら、どうしてくれる。っても、の責任だから責任とらせるけど。
タオルを渡されて顔を拭い、髪を適当に後ろで纏めて(いい加減切らないとうざいな)キッチンへと足を進めた。






「お味噌汁!」

「却下。」

「ホットケーキは?」

「却下。面倒なんは嫌さ」

「えー? じゃあ何ならいいの?」

「面倒じゃないもの」

「・・・、んー、」






はシンクに片手を付き眉根を寄せて真剣に悩み始める。これは時間がかかりそうだと、オレは一つ大きな欠伸をした。
実質朝飯なんて少し何か食えば良いんだから、ガッツリ料理をする気にはならない。まあ作って精々卵料理云々。いっそのこと、もうシリアルでも良いんじゃないか。
オレがそんなことを思い始めていると、から唐突に腕が伸びてきて、オレの首に絡まった。






「どうし・・・、」






首に回された腕に体重をかけられて、少々前のめりになると、言葉半ばで唇を合わせられた。
唐突過ぎるの行動に全く意図がつかめない。まあ意図はつかめなくても、からちゅーしてくれるなんて滅多に、指折り数えても片手で足りる程しかないから有難く歓迎する。つーかオレは歓迎どころか喜びすぎて、実際心臓がバクついてんだけど、・・・。なんか癪だよなー。






は自分からしておいて顔を赤らめ過ぎだろう?ああもう・・・、ぶっちゃけ死ぬほど可愛いから困る。
オレは目を細めて、暫くの間合わせられただけの唇を堪能した。誰の真似なのか無意識なのか、これが案外長い。の腰に腕を回す余裕も、もっと抱き寄せる余裕もあった。さてこの辺りでそろそろ終わりにしようか、自身がそう思ったところで、今度はオレの方がしたくなってくるから、キスは更に長引く。






「んむ、・・んん、」






唇を離そうとしたところを、今度はオレに噛み付かれて、結局は更に顔を赤くした。
最初にしてくれたのはだから、お返しはしないと。それに今回は自身から進んでしてくれたんだから、お返しは余計に上乗せしないと。そうじゃなきゃオレの気もおさまらんさ。






「は、ぁ、・・っふ」






舌で唇の割れ目をなぞってやると容易に口を開いた。舌を差し入れると、のソレはやんわりと拒んでくる。想定の範囲外。まるでそんなことでも言うように、オレの首に絡めていた手も解いて肩やら腕を掴んで、なんとなく必死になっている。オレはそれをあんまり気に止めることもなく、変わらずの舌やら唇を音を立てながら吸って、時たま歯列をなぞる。






溢れそうになる唾液を絡めて、のものは舌を重ねて味わいながら嚥下した。いくら唾液を塗りつけても直ぐに乾く唇を何度も啄み食んで、気の済むまでキスを続けた。
ちなみにオレはこの時キッチンにいることを忘れていて、もしかしたら両親が起きてくるのではないかという危険性さえ忘れ去っていた。それだけの唇や舌に陶酔してしまっていた。






「なんでお兄ちゃんがしてくるの!」

が先にしてきたんしょ」

「だからってお兄ちゃんがすること」

「まあいいじゃん」

「よくないの!」

「で、何でいきなりちゅーしてきたんさ?」

「だ、・・・だからー、」






唇を離した後に目一杯抗議されて、結局からちゅーしてくれた理由は、キスでもしたらオレが気をよくしてホットケーキを作ってくれるかもしれない。というなんとまあ可愛いというか単純な思惑から、だったらしい。好きでしてくれたんじゃないんか。半分ガッカリして半分絆されて呟いた言葉に、これまたは、好きじゃなきゃちゅーもしないと言い放ってくれた。
なんかもう此処まできたらお互いに重症だろうと思う。世間の人間には悪いけど、バカップルって本人らはかなり幸せなんだよ。いや、もうオレは真面目に幸せさ。






「・・・。んじゃホットケーキな」

「お兄ちゃん有難う大好き!」

「はいはいオレも。その代わり手伝えよ」

「うんー」






また勢い良くに抱きつかれて、オレは少しよろけながら、ボールやらフライパンに手をのばした。は一度ぎゅう、とオレを強く抱きしめると、冷蔵庫に駆け寄り材料を揃えにかかる。
って、これでもうの思惑通りになってんじゃん。まあキスまでしてくれた相手の好意に、もう逆らおうなんて思わんけど、なんか釈然としない部分があるというか。・・・、気にしてたらキリがないか。






結局オレはには弱い。そしてでそれをよく理解している。





















あやつり人形


 まあに操られるなら、あんまり悪い気はしないさ。





















(07/10/27) (閉じる)