のそれに気付いたのは日常茶飯事に有り得そうなことの中でだった。
 一番最初はいつだったっけ。・・・、ああそうそう。たしか最初はの耳に装飾されたピアスを見たとき。恋仲のオレが言っても説得力が無いかもしれないけれど、は本当に何を着てもつけても可愛らしいから困るんだよね。






「それ、」
「あ・・新しく買ったの。どうかな?」
「ん、似合ってるね」






 いつも見るゆらゆらと揺れる耳飾ではなくて、耳にポン、と付いて飾るものだった。興味本位に手を伸ばして、耳にかかる髪を梳いて、暫くそれを眺めてからの耳に触れたとき。
 ぴくりと揺れた肩は気にならない、気にならないじゃなくて気に出来ない、肩じゃなくての口元の方がよっぽど気になったから。一瞬だけ唇を噛みしめた歯のせいで、彼女の唇は少し白くなって直ぐに赤くなった。肩を揺らすだけならこんなにも気にしなかったのに。






「かわいいよ」
「あ りがとう」






オレの言葉に、そう返したの不自然な笑顔と詰まった言葉。気にはなったけれど、その時はに別の話題を振られて流れてしまった。






 ん、それで次はたしか、額当てを変えたとき。オレじゃなくてのね。なんでもその時のこなした任務は厳しかったらしくて、額当ての金属の部分も布の部分もボロボロになってしまっていたから、新調することにしたんだよ。額当ては里の忍である大事な証だし丁度良い機会だったと思う。






「なんだかアカデミーを卒業した時みたい」
「アハハ、良かったね」
「うん」






ピカピカの真新しい額当てを手にして、はにかみを交えて笑うはやっぱり可愛いかった。オレが「付けてあげようか」と言えば、また笑って「お願い」と言ってきたに正直なところかなり骨抜き。っと、そうじゃなくて、問題はその額当てを付けてあげた時。






 の後方に周って、彼女の額に額当てをあて、後ろの方で結ぼうとしたオレの指が彼女の耳の上の方を掠めたら、肩がまたぴくりと動いたんだ。それには敢えて何も言わないで、結び終わった後紐に挟まれた髪を整えるようにしてやりながら、またの耳の辺りを触れば、今度は喉の奥から聞こえたくぐもった声。けれどは直ぐに誤魔化す様にオレの手をとって握り、有難うと笑んで見せた。そのの顔が何処と無く紅潮していることにも、その時は気付いた。






 耳に触れられるのが嫌なのか、それとも別の理由なのか。こんなことが起きてからオレはの耳が気になって仕方がない。・・・、そう言えばとセックスをしている時にも、オレが不意に彼女の耳を舐めると身震いをして直ぐ頭を退かしてしまう。照れ隠しか快感ゆえか、区別の付けようが無い、といえば、無い。オレに都合よく解釈してしまうならば即座に解決してしまうのだけれど。今はそういう気分でも無いからね。






とりあえず物は試し。
 今は運よくと二人きりで資料の整理中なわけだし、やろうと思えば何でもできるはず。資料棚の前の床に座り込んで紙の束を整理しているに近づいて、オレもそのの隣に座り込んだ。






「どうしたの?」
「ん、なんでもないよ」
「・・・なんでもないわけないでしょう? 顔が笑ってるもの」
「ええ? オレはいつも笑ってるでしょ?」






 流石だなあ。オレが今からしようとしていることを見通してるみたいなその言い方、思わずもっと口元が綻んでしまうよ。
 オレはそのまま笑いながら、ごく自然に顔を近づけての頭に片方の手を伸ばす。彼女の頭を数度撫で、そのまま耳まで手を降ろした。
 今度はちゃんと真正面からじっくり見極めてあげるからね。






「っ、ほ・・本当に、なに?」






 オレはの言葉に何も応えず、唯只管の耳を触る。先ず人差し指と親指で柔らかい耳朶を挟んでやわやわと押したり軽く擦ってみたり。耳朶を充分に堪能したら親指で耳の後ろの付け根をなぞる様にして、触れている部分を上にずらしていく。
 は訳がわからないと言いたげ様な表情でオレを見ていたけれど、オレの指がの耳を這うほどにその目を細めて眉根に力を入れ、また唇を噛み締めた。オレはそれに構わず指を這わせ続ける。






「カヤ、・・・ はぁ、」
、そんなにきつく握りしめたら資料に皺がついちゃうよ」
「・・・ん 」






オレの名前を呼ぶために開いたの唇、その唇を少しだけ震わせて熱い息を吐く。そしてはなんとも緩慢な動作で手にしていた資料を自分の膝の上に置いた。
 未だにオレを見つめてくるの目は、オレが耳に触れるか触れないかの境目を辿ると一層熱が篭っていく。もしかしなくても、気持ちいいのかな?嫌がったり、前回前々回の様にオレの手を振りほどくこともせず、気の抜けてふやけたような顔をするはまるでセックスの最中を思わせた。






「ねえ
「な・・に?」
はオレに耳を触られるの、」






好き?嫌い?本来ならばそう続けたかった言葉は完全に空気に溶けて消えてしまった。
 オレが彼女の、の耳の上方の少しだけ骨ばったようなところを強めに擦ったその瞬間、の体が微かに跳ねてしまったから。
 オレの手を振りほどかない時点で、もう気付いていたけれど、それは今確信となった。このの顔を見ればもう聞く必要もなくない。
 はまるで胸でも愛撫された時のように息を弾ませ、長めの睫毛の揃ったその瞳を伏せて顔を紅潮させている。






 これは、多分あれだ。耳は、にとっての性感帯っていうもの。しかも、かなり敏感な。






「・・・やっぱりなんでもないよ」
「? っは、 あの・・カヤク、もういい・・から」
「ん、もうちょっとだけ、ね?」
「・・、」






オレの言葉に泣きそうになるが無性に可愛くて、気を抜くとオレまで下半身に熱が集ってしまいそうだ。くわえて何か言いた気に見上げてくるその瞳と唇が小刻みに震えていて、オレの頭の奥ではよからぬ妄想が何度も過ぎっていく。
 オレは笑ったまま、のもう片方の耳へと手を伸ばし、両方の耳を、ゆっくりと形を確かめるように指を這わせて指の間で何度も擦る。両耳に触れられて、の顔が自然と上の方を、オレの方を向くような形になれば。






「あ、 や・・やめ・・カヤク、かやくっ」






快感か羞恥からか、たまらないと言わんばかりに体を捩り、顔を逸らそうと身悶えるに、オレは遂に堪らなくなってその唇に食いついた。突然のキスにのくぐもった声とすっかり色良く熱くなった吐息、それは容易に――。





















暴いた先を妄想させる





















(07/08/22) (閉じる)